BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周 夢大陸オーストラリア編

    2008.11.23 / Vol.19

    「横断日記3」

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    藤原かんいち

    • 撮影

    藤原かんいち

    • バイク

    モトラ

VOL.19 「横断日記3」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]

ナラーバー平原横断6日目。今日の移動はナシ。バイクの整備と休暇の日に当てる。

州境
ウエスタンオーストラリア州と南オーストラリア州の州境

しかし、今日は大切な仕事がひとつある。実は1450km走りきれる計算で積んでいたガソリンが、燃費が予想以上に悪くなり、足りなくなってしまったのだ。計算すると次の給油地点グレンダンボーの150kmくらい手前で尽きそうだった。
何としてもクックでガソリンを補充しなくてはならないが、ガソリンスタンドらしき姿はどこにもない。車は走っているのでどこかにあるはず...人に訪ねると案の定、ストアで売っているという。
ストアの亭主に尋ねるとすぐに小屋に連れていかれた。一体こんなところにあるのかと訝しげに見ていると、小屋のドアの奥に、ガソリンの匂いをプンプンさせた、ドラム缶がゴロゴロ並んでいた。
よかった。これで最後まで行ける。僕はもしものことを考え、少し多目に5リットル水を買っておく。
夕方になると学校の先生や生徒と交じって、クリケットを楽しんだ。しかしルールが良くわからないので、野球のバットのようにブンブン振り回すだけ、それでも遠くへ飛ぶと気持ちがよかった。地平線の中でやるクリケットは開放的で、最高に楽しかった。

ナラーバー平原横断7日目

大陸横断列車
クックに停車していた大陸横断列車

ナラーバー平原横断7日目。昨日キャブレターを掃除したので、今日はエア&スロットルスクリューを調節してから出発する。
そして再び無の世界が始まる。
「フ~オオオオオオッ!」
突然大きな汽笛が聞こえたのでビックリ。振り替えると大陸を横断する「インディアンパシフィック号」がすぐ近くまで来ていた。
慌ててバックからカメラを取り出して大きく手を振ると、再び大地を揺さぶるような大きな汽笛で応えてくれた。
腹が減ると薪を集めて火を起こし、温かいミロを飲む。メシは食パンにジャムを塗っただけ、それでも十分にうまく感じる。
ワトソンを過ぎると東の地平線に被さるように、うっすらと森が見え始めた。恐らくあそこがシンが言っていた「森林限界ライン」だろう。いよいよ本当の意味でのナラーバー平原も終わりが近づいてきた。森が近づくに連れて岩がなくなり、砂が多くなる。
しばらく走ると、前方から歩いてくる人がいるのが分かった。手を振るとそれはアボリジニだった。

一体どこから歩いて来たんだ?

何もない砂漠のど真ん中で...キツネにつつまれたような気分。まさか何かの亡霊で、ドロンと消えるんじゃないかと思いながら、バックミラーを何度も覗く。すると今度はオンボロトラックがやって来た。運転席を見ると7~8人のアボリジニがすし詰め状態になっていた。なるほど、そうか分かった、さっきの人はこの人たちの仲間なんだな。僕はようやく事情を理解した。
森に入ると、とんでもない急勾配のアップダウンが始まる。シンがきつかったという砂は思ったほど深くなく、ギアチェンジだけで前進することができた。
激しいアップダウンが20kmくらい続いただろうか、道は徐々に平らになり走りやすくなった。今日はほぼ予定通り、夕方バートンにたどり着く。風が強いので空き家の風下にテントを張る。

ナラーバー平原横断8日目

タークーラの工員達
僕を食事に誘ってくれたタークーラの工員達

今朝はどういう訳か何度も行き止まりにぶつかる。一本道なので間違えるはずがないのに...おかしい...。適当な脇道を探しながら進んで行くと、前方からランクルがやってきた。心配になり車を止めて「この道はタークーラに続いているのか?」訪ねると、この道ではないという。
「ななななにーっ!?」
どうやらこの道は少し先で行き止まりになっているらしく、僕はかなり手前から道を間違えているようだった。もしここでランクルに逢えなかったら、もっとやばかっただろう。
ランクルの先導で20km引き返す。再びバートンを通り、道が分かるところまで案内してくれた。助かった。あのまま行ってたらどうなっていたのか。ランクルに感謝する。
午後になると再び木々が減り視野が開けてくる。道もアップダウンがなくなりひたすら平らになる。
久しぶりに牧場の鉄柵が現れたかと思うと、これまた久しぶりに動く物体、羊を発見。人間の住む世界が近づいていることを実感する。日が沈みかける頃、タークーラにたどり着いた。今日はダメかと思っていたので嬉しい。
町外れにテントを張っていると「一緒にバーベキューをしないか?」と夕食に誘ってくれた。行ってみるとむさ苦しい10人ほどの男たちがグリルを囲み盛り上がっていた。聞くと近くの鉱山で働いている人達で、ほとんどがイギリスやイタリアからやって来たヨーロッパ人だった。とにかくみんな陽気、ビールで乾杯だ。
僕もみんなと一緒にナラーバー平原に乾杯する。

ナラーバー平原横断9日目

赤土の大地
いまでもボクの脳裏に赤土の大地が鮮明に焼きついている

横断の旅も残すところ120kmとなった。余程大きなトラブルがない限り、今日中にグレンダンボーにたどり着けるはず。時間的に余裕があるので昼近くに「タークーラ」を出発する。ダートとはいえ路面が締まっているので、思いのほか走りやすい。時速40kmで快調に飛ばす。
半分ぐらい来ただろうか、真っ直ぐな道を写真に撮っていると、ゴーグルないことに気が付いた。今日は暑いのでゴーグルはナシで走っていたのだ、バックに挟んでおいたのだが、どこかで落ちたのだろう。水筒の次はゴーグルか...。探しに戻るガソリンの余裕はないので、悔しいが先に進むことにする。
まだか...まだか...と胸をときめかせながら、緩やかな丘をいくつか越えると、遠くに白い建物が見えてきた。もしかして、あれがグレンダンボーか? そうだ。そうだ。
「やった。グレンダンボーだ、ついに横断達成だ! やったぞ~」
僕は興奮しながら拳を何度も天に突き上げた。50ccという小さなバイクで、ついに1400kmものダートを走りきったのだ。
僕は大きな喜びを抱えて、思い出のポートオガスタへ向かった。

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