BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2014.08.27 / Vol.03

    ヒストリックモデル #01

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

Vespa180 Super Sport
Vespa 180 Super Sport
正当スポーツバージョンのDNAを受け継いだスペシャリティ

今回はレストア編をお休みして、ヒストリックモデル編をスタートさせちゃいます。ベスパって丸みが最大の特長であるのは間違いないんですが、"絶妙なバランスで一際異彩を放つ角目モデル"というものも長い歴史のなかに存在するんです。「え、ベスパで角目!?」......なんだか気になりますよね?どうやら時代背景的なことでもあったようなんですが、「これからは角」というピアジオの戦略的チャレンジだったという推測が成り立ちます。 この「これからはこれだ!」と言わんばかりのボディワークにおける大胆なチャレンジをまとい、その象徴的な部分&デザイン的なトータルバランスによって生み出された"角目ベスパ"って、じつは真性スポーツの流れを汲むスペシャルな1台だったりします。 それではそこのところをじっくりと学んでいきましょう!!

スーパースポルトってなんなの?

角目ベスパ
ヘッドライトはラウンドタイプ(丸型)とは異なり、インパクトのある台形タイプを採用しています。そしてこのヘッドライト形状から角目ベスパなどの愛称で呼ばれることもあります

さて、時代のフラッグシップモデルとして(この当時)最大の180ccという排気量を与えられていたのがスーパースポルトというモデルなんです。この180 Super SportのことをSSと表記する場合がありますけど、SSとは単に略されたものでしかなく表記上はどちらも正解です。レッグシールド前面には「Vespa S.S.」、リヤには「Super Sport」の車名エンブレムを採用していますしね。
その180SS(以下、SSで統一)は1964から1968まで生産されたんですけど、人気モデルの1台でもある160GSの後継モデルにあたります。そのため160GSからの流れをくんだボアアップ版という見方もできますね。じっさい160GSに採用するエンジン&サスペンションの設計って、非常に類似したものとなっていましたから。
しかしSSにはまったく新しいデザインが採用されていたんです。丸みが際立っていた160GSとは真逆と言えるほど大幅に角張っていて、しかもひとまわり大きな印象のボディが採用されていました。

ヘインズマニュアル
レアアイテム1
左はヘインズマニュアル的なハンドブックで当時の車両をシリーズ化していたようです。中央はイギリスのベスパ生産メーカー(ライセンスメーカー)・ダグラス社のパーツリスト。右は日本のベスパクラブが2003年のイベント用に製作したモニュメント記念メタルバッジだそうです。
当時のVespa価格表
当時の新車価格表
昭和41年/1966年に当時の日本総代理店(正規輸入元)である東急商事が配布した価格表がこちら。フラッグシップだったSSがもっとも高く、24万7,000円でした。ちなみに当時の物価は封書切手15円、国鉄初乗り(現JR)20円、パート賃金が時給70円/日給560円、2DK公営住宅賃料が7,600円/月でした

スポルトの系譜

Vespa 160GS MK2
160GS/一つ前のフラッグシップが160GSで、写真はMK2(マーク2/後期モデル)なので正に直前のモデルということになります

初めてベスパの市販モデルがデビューしたのは1946年のことでしたが、市販スポーツモデルという位置づけのベスパは1955年登場の150GS(GSはグランスポルトの略)からとなります。もちろんこの150GSが当時のフラッグシップモデルであったのは言うまでもありませんが、その高性能ぶりは世界をあっと言わせるに十分過ぎるものがありました。なんと1955年当時の排気量150ccでしかないスクーターが、驚くべきことに最高速100km/Lを堂々とマークしていたんです。
そしてその後継の160ccモデルにGSという名称が引き継がれたのは1962年のことでした。新しいGSにもスポーツフィーリングを味わえるピストンバルブが採用され、"より耐久性を高めた市販スポーツモデルという位置づけ、かつ日常の使用にも十分耐えるスペック"へと進化していたためGSの名に恥じない1台だったといえます。
それから2年。満を持して登場した次期フラッグシップモデルにもピストンバルブが受け継がれ、スポルトの系譜はより確かな進化が感じられました。それが180ccへと排気量が高められたSSだったのです。なお、これ以後のモデルからロータリーバルブが採用され、2世代後には最大排気量も200ccに拡大されるため、SSがピストンバルブの最終型にして最大排気量ということになります。

PIAGGIOが発行していた冊子
GIOIA DI VIVERE
Vespa180

レアアイテム2
ピアッジオ社(ベスパの生産メーカー)が発行する冊子の92号では、当時生産していた車両を中心に構成されていました。そのうち180SSの掲載ページのみ抜粋したものになります。

しっかりと強化対策済み

青いVespa
カラフルな印象の強いベスパですが、SSでは青、白、赤の3カラーがラインナップされていて、その中でも赤だけはなんと3種類の設定がありました。

スポーツバージョンの系譜を象徴するスポルトの名を冠したSS(スーパースポルト)ですが、本当のところその中身がどうなのかも気になりますよね。これについてはじつにさまざま手が入れられていて、160GSのエンジンの単なるボアアップ版ということではなさそうです。
まず160GSとSSでは共通のキャブレターなのにジェットの番手が大きくなっていて、ケースには互換性があったりします。これが大前提となるので、エンジンは基本的に160GSのものをボアアップさせた進化版だと思ってもらっていいでしょう。
その上で......たとえば160GSではコンロッドのスモールエンドがメタルだったのに対して、SSではその部分にベアリングが使われています。合わせてクランクシャフトのフライホイール側でフライホイールを留めているボルトが160GSの3本から6本へ強度確保を目的とした設計となっていることがわかります。

Vespa 180SS エンジン周り
Vespa 160GS エンジン周り

クランクまわりの互換性
160GSと180SSのエンジンまわりを比較すると、シリンダー、シリンダーヘッド、クランク、フライホイール、クラッチAssyの一部、ミッションが異なります。本文中でも触れていますが、基本的には160GSのボアアップ仕様となります。ただ排気量が異なることと、それに伴う強化対策により大半の構成パーツが変更されています。それでもケースは共通なので、160GSのクランクとフライホイールを180SSのものに変えることも可能だったりします。つまり160GSのケースを使っていながら中身は180SSとなるワケで、この仕様だとノーマルの160GSよりも断然速くなってしまうんですよ。

Vespa180SS マフラー
Vespa160GS マフラー

特殊排気量車のマフラー事情
ベスパのハイエンドクラスにおいて160GSと180SS、それとロータリーバルブ式ながら180rallyだけが特殊な排気量だったりします。そのせいで200のマフラーは付けられません。しかし160GSと180SSは共通のマフラーで、180rallyのものと互換性があるんです。この3モデルだけマフラーのマウント位置などが同じなためなんですが、180rallyに180SSのマフラーを付けると排気音は180SS的なサウンドになってしまいます。そして逆にすれば180SSなのに180rallyに似たサウンドを奏でるという不思議。

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