BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2017.02.01 / Vol.32

    ヒストリックモデル #09

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

第9回目となるヒストリックモデル編でクローズアップするのは、ピアッジオがプライベーター向けレースベースモデルとして市場投入した90SSです。ノーマルとは異なるハンドルポジション、リアタイヤにトラクションをかけやすいレーシングシート、ニーグリップ可能な立て置きスペアタイヤ、さらにダミータンクには胸当てクッションの装備といったスペシャル装備が施され、チューニングにも耐える強化エンジンユニットまで搭載。
そんな90SSの魅力に迫ります!

公道レースやマン島を席巻したスモールの頂点/90SS

Vespa 90SS
レースにも積極的だったピアジオがレースベースのスペシャルマシンとして投入......それがスーパースプリントだった

ピアッジオにとってベスパ初の市販モデルだった98が市場に投入されたのが1946年のことでした。その直後からピアッジオはレースモデルへの取り組みも積極的に行っていて、98の時代には98をベースとした98コルサ、フェンダーライト時代は同様にセイジョルニが作られています。これらのレースモデルはスクーターも参加できるスプリントレースや公道レース、それにトライアルなど各種スポーツイベントが当時世界的に盛んだったことから、市販車では飽き足らないユーザーのために製造されたという背景があります。
その流れを受けて、より一般のユーザーでもレースを楽しめるようにとリリースされたのが90SS(スーパースプリント)でした。90SSはベスパのスポーティな要素を強調した車両だったと言えますが、レースモデルというよりレース用ベースモデルという位置づけと考えるのがしっくりくるモデルです。 そんな90SSがデビューしたのは1965年でしたが、ちょうど世の中的に小型自動車などが低価格で買えるようになり始めた時期でもあります。そうした時代背景の影響もあって、それまで人々の便利な移動手段だったスクーターはその存在価値自体が変化し始めていきます。その結果、多くのスクーターメーカーが小型自動車製造に舵を切ったり、二輪車製造からの撤退を余儀なくされていきました。
しかしこの頃のピアッジオは廉価版であったスモールボディを主力に据え、それまでメインだった大きな排気量をもつラージボディの方をどんどんスポーツ車的な性格に変えていく戦略にシフトしていきます。それこそ乗りものとしてのベスパ、スクーターとしてのおもしろさを再定義しようとしていたかのように......。この時期、そうした展開におけるラージボディ系の頂点が180SSだとすると、90SSはもう一方となるスモールボディ系フラッグシップという側面を担っていたのでしょう。

歴代レースモデル
ピアッジオの本社に隣接するミュージアムでは、当時の歴代レースモデルなども展示されています。手前の赤いモデル×2台が仕様違いの98コルサです
98コルサ(98CORSA)
こちらの98コルサ(98CORSA)はイタリア本国ベスパミュージアムでの撮影となりますが、2007年には汐留で開催されたベスパ展にて展示もされました
セイジョルニ(Sei Giorni)
セイジョルニ(Sei Giorni)とはイタリア語で6daysを表していて、ISDT(6日間かけて行われるトライアル競技会)のために用意されたスペシャルモデルです

◎特異なスタイリングで注目されたスーパースプリント

1963年のベスパ50
Photo-あ
2年後にデビューした90SS
Photo-い
ダミータンク上面のパッド装備
Photo-う
ハンドルバーも幅を詰めた仕様
Photo-え

スモールボディ系のデビューは1963年のベスパ50(Photoあ)ですが、その2年後にデビューした90SS(Photoい)のフレーム(モノコックボディ)は基本それの流用です。ただしレースベースマシンとして乗り手のことを考慮したモディファイが施されていました。例えばニーグリップでコントロールしやすいようにダミータンクを設置したり、高速走行に備えた伏せ姿勢をラクにするダミータンク上面のパッド装備などがそうです(Photoう)。加えてレッグシールド幅を狭め、ハンドルバーも幅を詰めた仕様となっている点は空力を考えてのことだったのでしょう(Photoえ)。

レース用ベースマシンとしてタフに仕様チェンジされていた

Vespa 90SS
あくまでもベースであるというスタンスを守りユーザーのレースチューンに耐えるだけの仕様変更が施されていた

90SSというモデルはそのスタイリングやレース参戦が印象的だったせいか、レーシングモデルと捉えられがちです。しかし本当にそうなのでしょうか?
90SSには完全に新しい排気システムが用意され、エンジンは88.5ccながら一部のパーツに125と共通の部品を取り入れていました。これは「長距離、そして長時間走り続けるためにどうあるべきか」を考えて設計されたように思えるものです。なぜなら高速巡航をラクにするためのハイギアード化を考えてだったり、ユーザーが走りを意識してエンジンなどに手を入れやすいような余裕......つまり耐久性を考えての仕様変更が各所に見られるからです。

90SS

例えばパーツリストから追いかけていくと、シリンダーヘッド、シリンダー+ピストン、クランク、電装系&フライホイールマグネトーまわりに独立した専用品番が与えられていることが分かります。そしてコンロッドのスモールエンドがブッシュ(メタル)からローラーケージになっていて、VMA1T(125)というモデルと共通なのが興味深いところです。つまりピストンピンは耐久性を考えて、ブッシュからベアリングタイプに変更されていることが想像できるワケです。
またクラスタギア、スプリングギア、ギア(1速〜4速まで)もVMA1Tと共通で、この様な部品の使われ方を見ると、やはり長時間の高速走行でも走りやすく信頼できることを念頭に作られたモデルだったのだろうと思えてなりません。見方を変えれば基本性能に余裕を持たせているため、より走りを意識してエンジンに手を入れても良いように耐久性が高められたような印象を受けます。
そもそもコンロッドのスモールエンドがブッシュのモデル(例えば50R)をボアアップした場合、焼き付いてしまう可能性が高いようです。だからこそスモールのラインナップにあるスタンダードな90ccモデルがコンロッドのスモールエンドをブッシュとしているのに対して、ベアリングタイプに変更された90SSが走りを意識したユーザーに向けてしっかりと耐久性の向上を目的とした仕様変更を施していたと言えるでしょう。

【主要諸元】
Vespa 90SS(1966年式/owner:Kouichi Yamanobe)

形式名 V9SS1T
製造年 1965〜1971年
生産台数 5,309台
フレーム形式 スチールモノコック
全長×全幅×全高 1,650mm×550mm×---mm
シート高 745mm
ホイールベース 1,160mm
車両重量 77kg(乾燥)
燃料タンク容量 5L
燃料消費率 38.5km/L
最高速度 93km/h
0-70km/h加速性能 12.7sec
エンジン型式・種類 強制空冷式2ストローク単気筒
総排気量 88.5cm3(cc)
内径×行程 47mm×51mm
圧縮比 8.7:1
最高出力 4.47kW[6.08PS]/6,000rpm
吸気方式 ロータリーバルブ
燃料供給装置型式 Dell'Orto
点火装置 フライホイールマグネトー
始動方式 キック
2stオイル混合比 1:50
クラッチ形式 湿式多板
変速機型式 常時噛合4速ハンドチェンジ式
ファイナルドライブ ダイレクトドライブ式
タイヤサイズ(F/R) 3.00×10"/3.00×10"
ブレーキ形式(F/R) Φ125mmドラム式/Φ150mmドラム式
懸架方式(F) ダンパー×スプリング一体型シングルユニット
懸架方式(R) コイルスプリング付属ダンパーユニット
Vespa 90SS
Vespa 90SS-2
90SS
90SSエンブレム
90SS車名エンブレム

【ディテール】

ハンドチェンジ機構
ベスパとして伝統の、左グリップを回して変速するハンドチェンジ機構を採用。ギアは全4速で、1速と2速の間にニュートラルを配置するレイアウトです
フルスケール110km/h表示
メーターフェイスは90ccのためフルスケール110km/h表示。なお輸出仕様では、仕向地によってmph表示のマイルメーターが採用されていたようです
右グリップ部
右グリップ部には各種スイッチを配置したスイッチボックス。正面にはヘッドライトON/OFF、ハイ&ロー切替、ホーン、右側面にキルを備えています
ET3と同タイプで115mm径
ヘッドライトはスモール系ハイエンドのET3と同タイプで115mm径。ポジション球も備えた現代的な仕様ですが、光量はやや不足気味と言った印象です
縦スリットの4点留めタイプ
フロントサイドの表情を形成する重要な構成パーツとなるホーン。90SSでは縦スリットの4点留めタイプですが、後のスモール系では3点留めとなっています/h表示。なお輸出仕様では、仕向地によってmph表示のマイルメーターが採用されていたようです
フロントフェンダーも小ぶりな専用タイプ
実はフロントフェンダーも小ぶりな専用タイプを採用。従来のスモール系と比べて幅を抑えつつ後端が短いため、全体的にシュッとした精悍なイメージです
シート開閉は後ヒンジ式
ダミータンクがあるためシート開閉は後ヒンジ式。シートは通常の前ヒンジ式だと横配置2本ボルトで固定しますが、90SSでは縦配置2本留めとなります
小さな突起がシート開閉レバー
シート前方左側面の黒く小さな突起がシート開閉レバー。前ヒンジ式では後端部のレバーをスライドして開閉できますが、後ろヒンジ式ならではの装備です
3箇所の穴はサドルシートを装着するための固定穴
タンク前方にある3箇所の穴はサドルシートを装着するための固定穴。これはスモール系の中でサドルシート採用モデル用のものを流用しているからです
ガソリンコックレバーと黒ツマミのチョークノブ
シート前方下部の足元付近にガソリンコックレバーと黒ツマミのチョークノブを配置。コックは左側に倒してOFF、真上がON、右側に倒せばリザーブです
スペアタイヤ
スペアタイヤをフロアに縦置きで装備。タイヤ受け部分は写真のトレー状タイプのほか、コの字形状ホルダーでカッチリと固定するものも存在します
カシメタイプの専用アルミレッグシールドモール
レッグシールドからフロア後端にかけて幅を狭めた専用ボディ。切りっぱなしとはせずに、カシメタイプの専用アルミレッグシールドモールが付きます
ブレーキペダル
丸穴×丸アームのブレーキペダルを採用。このタイプはクリアランスがなく、組付時に気を使います。足で踏む部分のゴムが細長いのも特徴です
通称ダルマテール
独特の形状から通称ダルマテールとか旧テールと呼ばれるテールランプを採用。このタイプのオリジナルは枠付きリフレクター部が裏でナット留めです
専用開発マフラーを採用
専用開発マフラーを採用。マフラーだけで達成しているワケではないですが、スタンダードな90が3.14PSなのに対して6.08PSを発揮する原動力です

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