BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周

    2007.11.01 / Vol.17

    電動バイク世界一周の旅『 イチイの巨木を眺めながら 』

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VOL.17 『 イチイの巨木を眺めながら 』[ヨーロッパ大陸編]

藤原かんいちの冒険ツーリング

思わぬタイミングでイギリスへ

イギリスのキャンプ場
イギリスのキャンプ場。近くが競馬場で泊まった日がちょうど開催日。ゴールの度に大歓声が沸きあがっていた

レアブレからフェリーに乗りイギリスへと向かう。 つかの間の船旅をソファーに座って楽しんでいると、突然テレビの周りが騒がしくなった。何とロンドンでテロがあったらしい。テレビにはケガ人や地下鉄の様子などが映し出されている。何てことだ! 少しするとフェリー乗り場で親しくなったイギリス人が「いまロンドンは危ないから行かない方がいいよ」と心配そうに教えてくれた。

それにしても、いままさにイギリスに上陸しようとしているところで、何というタイミングだろう。でも早くわかってよかった。普段はなかなかテレビも観られないし、新聞もほとんど読まないので、こういう情報はすぐに手に入らないからだ。この時点でわかったのは逆にラッキーだったのかもしれない。

言葉の全くわからないフランスからイギリスに入ると、英語になりホッとする。いくら英語が苦手な僕でも、さすがにフランス語よりはわかるからね。だが逆に道は狭くなり、車が多くなったので走るほうはのんびりできなくなった。うーん、なかなか全てがいい方にはいかないもんだ。

イチイの巨木を眺めながら

「ストーンヘンジ」
数多くの謎が残る「ストーンヘンジ」。すごい数の観光客でごった返していて日曜日の公園のように賑やかだった

謎多き「ストーンヘンジ」を訪ねた後、僕たちはイチイの巨木が生きているというクロハースト教会とタンドリッジ教会を探した。近くのレイゲートという町のインフォメーションで両教会の場所はわかったが、結局そこにイチイの木があるかはわからなかった。

「タンドリッチだから教会はこのあたりのはずだけど...」
探しながら走っていると、あっという間に村を通り抜けてしまった。それくらい小さな村だった。運良く人が歩いてきたので教会のことを尋ねると、通ってきた坂の右側にあると教えてくれた。そしてそこにイチイの巨木があるという。


イチイの木
ロンドンのおよそ南50kmにあるタンドリッジ教会の敷地に立つイチイの木は樹齢1000年以上といわれている

「よかった、やっぱりあるんだ!」
と喜ぶ。教会の敷地に入ると、その木は周りの墓を見守るように立っていた。樹皮に刻まれた深い筋が生きてきた年月の重さ感じさせる、風格のある巨木だ。そしてどこか神々しく感じるのは教会に立っているからだろうか。

もう一本のクロハースト教会のイチイはすぐに見つかった。こちらもやはり幹周りが10m以上もある巨木で、樹齢も1400歳を越えているという(どうやらイギリスで2番目に古い木らしい)。この木は幹に扉があり、まるでおとぎ話の木のようだ。突然扉が開いて中から木の妖精が現れそうだった。

そこでは偶然この教会で結婚式を挙げたという地元の女性に会った。そこで彼女が結婚式を挙げたのが、僕の生まれた年と同じだとわかりビックリ。不思議なめぐりあわせを感じるのであった。

オランダは自転車天国

フランスからベルギーへ
フランスからベルギーへ。どこまでも畑が広がっている

イギリスからドーバー海峡を渡り、フランスからベルギーに入る。
ベルギーでは「天井のない美術館」といわれるブルージュを訪ねた。小さな運河を越えて町に入るとそこは別世界で、童話に出てきそうなかわいらしい切妻屋根の家々が並んでいた。さらに石畳の道を歩いて行くとマルクト広場に出る。そこにはヨーロッパ一の音色といわれるベルフォートや、ゴシック様式の装飾が素晴らしい市庁舎などあり、どれもため息の出るくらい美しかった。僕たちはしばしバイクを離れて、自分の足でゆっくり町を探索した。

次に訪れたオランダで驚いたのが、ベルギーも多かった自転車がさらに増えたことだった。それも老人や若いカップル、ファミリーまで老若男女がサイクリングを楽しんでいるのだからビックリ。こんな国はじめてだ。確かにオランダは山がなく、どこまでも平原だから自転車も楽しそうだ。

そしてさらに自転車専用の道路があるのにまたビックリ。それが田舎町や海岸ばかりではなく大都市の街中まで、至るところを繋いでいるのだからスケールが違う。それも自転車道専用の道路はもちろん、専用の陸橋からトンネル、信号、標識まで完備しているのだから、もう想像をはるかに超えている。

21時間のひとり旅

「天井のない美術館」と呼ばれるブルージュ
「天井のない美術館」と呼ばれるブルージュ。カラフルな壁の切妻屋根の建物が並んでいる。おとぎの国にでも迷い込んだ気分

パッソルもカテゴリー上この自転車道路を走ることになるのだが、そこで困ったことが起きた。川を渡るフェリー乗り場へ着いたところ、この船はパッソルしか乗れないというのだ。そして普通は車とバイクはここから25km離れたところにあるトンネルで川を越えるのだが、このトンネルは自動車道路なのでパッソルは走れないというではないか。

「そんなぁ、どっちにしても一緒に走れないじゃん!」
思わぬ状況に動揺するヒロコ。困ったことになったぞ...。色々考えるが、結局別々に走って対岸のフェリー乗り場で待ち合わせするしかなさそうだった。トンネルの方は60km以上も走らなければならなので、この間は僕がマジェステイを走らせることにする。
「また後でね!」

とフェリーに乗り込むヒロコを見送ると、大急ぎでトンネルへ向かった。そして約1時間後、対岸のフェリー乗り場で待っていたヒロコと再会。つかの間のひとり旅となった。
そのときはまだ笑っていられたが、その翌日とんでもないことが起こった。パッソルで自転車道路を走っていたヒロコと完全にはぐれてしまったのだ。


風車が残る「キンデルダイク」
19基もの風車が残る「キンデルダイク」は世界遺産にも登録されている。海岸線にも近代的な風力発電の風車がたくさんあった。オランダはまさに風の国

先へ行ったり、別れた場所に戻ったりするが見つからない。地元の人や自転車の人に聞くが誰も見ていないという。これはずっと先の町まで行ったのかと思い、探しながら40km先にあるロッテルダムのユースホステルまで行く。受付の人にヒロコのことを尋ねるが泊まっている人のことは教えられないと言う。
「おーいヒロコ、どこにいるんだぁ?」
トラブルに巻き込まれていなければいいが...

結局、午後3時ごろにはぐれたまま会えず、夜になってしまった。分かれた町のキャンプ場のバンガローに泊まるが、なんだかやけにシーンとしている。いつもはケンカばかりだけど、いなくなると淋しいもので、まるで心にポッカリ大きな穴が開いたようだった。 そしてこの日初めてひとりの夜を過ごすことになった。

翌朝、再びロッテルダムのユースホステルに行ってみると、なななんと、電柱にパッソルのオレンジフラッグがあるではないか! ヒロコがいるんだ。やったっ。21時間ぶりにヒロコの顔を見ると、心のそこから喜びがこみ上げてくる。とにかく無事でよかった。
ああ、もうこんな辛い思いはコリゴリだ。

素朴で親切なフランス人

4人で夢のように楽しい時間を過ごした
6ヶ月前、オーストラリアのナラボー平原の真ん中であったライダー、バン&パトリシアとドイツで再会。4人で夢のように楽しい時間を過ごした

オランダからドイツに入るとルクセンブルグへ向かった。
ルクセンブルグは神奈川県とほぼ同じ大きさの国。そんな小さな国は一体どんなところなのか、そんな好奇心だけでやってきたが、古い町並みが残るとてもきれいな町だった。

特に大きな要塞から眺めた風景は絵のような絶景で、それだけでもこの町に来た価値があったと思う。なんだか思わぬ素敵な拾い物をした気分でもあった。

再びドイツに入り南下。フランスとの国境の町の小さな町に着き、フランスでホテルを探すがなかなか見つからない。キャンプ場もあるらしいが5kmも離れているという。


首都ルクセンブルグの「ボックの砲台」
ルクセンブルグには神奈川県ほどの面積に約44万人が住んでいる。首都ルクセンブルグの「ボックの砲台」の絶壁からの眺めは素晴らしかった

次の町まで移動しようかと思っていると、前に車が止まった。僕たちを呼んでいるようなので車内を覗き込むと、30代位の男性がふたり乗っていた。「そのバイクで旅行中してるの?」「へぇ~日本から来たんだ」英語で嬉しそうに話しかけてくる。
僕たちが宿を探していることを知ると、金髪の男性が少し考えてから

「空き家があるけど、良かったらそこに泊まるかい?」
というではないか。何てありがたい申し出だ。でも聞き違いかもしれないと思いながら車の後をついて行くと、一軒の家にたどり着いた。中に入ると家具はなくガラーンとしている。今はモスクワに住んでいるため、元々住んでいたこの家が空き家になっているらしい。そして良かったら使ってくれという。これはありがたい。空き家といっても改装したばかりらしく床も壁もきれいで、おまけに温かいシャワーも出るのだから、下手な宿以上ではないか。何て幸運なんだ。


ヒョウに降られた
7月下旬だというのにドイツの山の中でヒョウに降られた。「ええっマジかよ~!」とあせっていたところ、ハンドルを握る指にヒョウが直撃、声を上げるほど痛かった

明日出るときに鍵を閉めて出ればいいからと、鍵を渡される。去って行く車を見送っているとアレンさんのことを思い出した。
イギリスからフランスへ渡ったとき、道で知り合い色々お世話をしてくれたのがアレンさんだった。とても親切な人で、家に泊めてもらった上に食事までご馳走になってしまった。あのアレンさんもフランス人だったし、そういえば道路で声をかけられて部屋でレモネードをご馳走してくれたおばあちゃんもフランス人だったなぁ。

フランス人というと「プライドが高い」とか「冷たい」というイメージがあるけど、実際に会ったフランス人はとても素朴で親切な人ばかりだった。やはり何事も「百聞は一見にしかず」、実際に会って話してみないとわからないもの。旅をしているとつくづくそう感じるのであった。

取材・文/藤原かんいち&ヒロコ(2005/07/01)

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