第9回目となるヒストリックモデル編でクローズアップするのは、ピアッジオがプライベーター向けレースベースモデルとして市場投入した90SSです。ノーマルとは異なるハンドルポジション、リアタイヤにトラクションをかけやすいレーシングシート、ニーグリップ可能な立て置きスペアタイヤ、さらにダミータンクには胸当てクッションの装備といったスペシャル装備が施され、チューニングにも耐える強化エンジンユニットまで搭載。
  そんな90SSの魅力に迫ります!

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公道レースやマン島を席巻したスモールの頂点/90SS

6レースにも積極的だったピアジオがレースベースのスペシャルマシンとして投入……それがスーパースプリントだった
Vespa 90SS

  ピアッジオにとってベスパ初の市販モデルだった98が市場に投入されたのが1946年のことでした。その直後からピアッジオはレースモデルへの取り組みも積極的に行っていて、98の時代には98をベースとした98コルサ、フェンダーライト時代は同様にセイジョルニが作られています。これらのレースモデルはスクーターも参加できるスプリントレースや公道レース、それにトライアルなど各種スポーツイベントが当時世界的に盛んだったことから、市販車では飽き足らないユーザーのために製造されたという背景があります。
  その流れを受けて、より一般のユーザーでもレースを楽しめるようにとリリースされたのが90SS(スーパースプリント)でした。90SSはベスパのスポーティな要素を強調した車両だったと言えますが、レースモデルというよりレース用ベースモデルという位置づけと考えるのがしっくりくるモデルです。  そんな90SSがデビューしたのは1965年でしたが、ちょうど世の中的に小型自動車などが低価格で買えるようになり始めた時期でもあります。そうした時代背景の影響もあって、それまで人々の便利な移動手段だったスクーターはその存在価値自体が変化し始めていきます。その結果、多くのスクーターメーカーが小型自動車製造に舵を切ったり、二輪車製造からの撤退を余儀なくされていきました。
  しかしこの頃のピアッジオは廉価版であったスモールボディを主力に据え、それまでメインだった大きな排気量をもつラージボディの方をどんどんスポーツ車的な性格に変えていく戦略にシフトしていきます。それこそ乗りものとしてのベスパ、スクーターとしてのおもしろさを再定義しようとしていたかのように……。この時期、そうした展開におけるラージボディ系の頂点が180SSだとすると、90SSはもう一方となるスモールボディ系フラッグシップという側面を担っていたのでしょう。

◎特異なスタイリングで注目されたスーパースプリント

  スモールボディ系のデビューは1963年のベスパ50(Photoあ)ですが、その2年後にデビューした90SS(Photoい)のフレーム(モノコックボディ)は基本それの流用です。ただしレースベースマシンとして乗り手のことを考慮したモディファイが施されていました。例えばニーグリップでコントロールしやすいようにダミータンクを設置したり、高速走行に備えた伏せ姿勢をラクにするダミータンク上面のパッド装備などがそうです(Photoう)。加えてレッグシールド幅を狭め、ハンドルバーも幅を詰めた仕様となっている点は空力を考えてのことだったのでしょう(Photoえ)。

レース用ベースマシンとしてタフに仕様チェンジされていた

  90SSというモデルはそのスタイリングやレース参戦が印象的だったせいか、レーシングモデルと捉えられがちです。しかし本当にそうなのでしょうか?
90SSには完全に新しい排気システムが用意され、エンジンは88.5ccながら一部のパーツに125と共通の部品を取り入れていました。これは「長距離、そして長時間走り続けるためにどうあるべきか」を考えて設計されたように思えるものです。なぜなら高速巡航をラクにするためのハイギアード化を考えてだったり、ユーザーが走りを意識してエンジンなどに手を入れやすいような余裕……つまり耐久性を考えての仕様変更が各所に見られるからです。

  例えばパーツリストから追いかけていくと、シリンダーヘッド、シリンダー+ピストン、クランク、電装系&フライホイールマグネトーまわりに独立した専用品番が与えられていることが分かります。そしてコンロッドのスモールエンドがブッシュ(メタル)からローラーケージになっていて、VMA1T(125)というモデルと共通なのが興味深いところです。つまりピストンピンは耐久性を考えて、ブッシュからベアリングタイプに変更されていることが想像できるワケです。

  またクラスタギア、スプリングギア、ギア(1速〜4速まで)もVMA1Tと共通で、この様な部品の使われ方を見ると、やはり長時間の高速走行でも走りやすく信頼できることを念頭に作られたモデルだったのだろうと思えてなりません。見方を変えれば基本性能に余裕を持たせているため、より走りを意識してエンジンに手を入れても良いように耐久性が高められたような印象を受けます。

  そもそもコンロッドのスモールエンドがブッシュのモデル(例えば50R)をボアアップした場合、焼き付いてしまう可能性が高いようです。だからこそスモールのラインナップにあるスタンダードな90ccモデルがコンロッドのスモールエンドをブッシュとしているのに対して、ベアリングタイプに変更された90SSが走りを意識したユーザーに向けてしっかりと耐久性の向上を目的とした仕様変更を施していたと言えるでしょう。

【主要諸元】
Vespa 90SS(1966年式/owner:Kouichi Yamanobe)

形式名V9SS1T
製造年1965〜1971年
生産台数5,309台
フレーム形式スチールモノコック
全長×全幅×全高1,650mm×550mm×---mm
シート高745mm
ホイールベース1,160mm
車両重量77kg(乾燥)
燃料タンク容量5L
燃料消費率38.5km/L
最高速度93km/h
0-70km/h加速性能12.7sec
エンジン型式・種類強制空冷式2ストローク単気筒
総排気量88.5cm3(cc)
内径×行程47mm×51mm
圧縮比8.7:1
最高出力4.47kW[6.08PS]/6,000rpm
吸気方式ロータリーバルブ
燃料供給装置型式Dell'Orto
点火装置フライホイールマグネトー
始動方式キック
2stオイル混合比1:50
クラッチ形式湿式多板
変速機型式常時噛合4速ハンドチェンジ式
ファイナルドライブダイレクトドライブ式
タイヤサイズ(F/R)3.00×10"/3.00×10"
ブレーキ形式(F/R)Φ125mmドラム式/Φ150mmドラム式
懸架方式(F)ダンパー×スプリング一体型シングルユニット
懸架方式(R)コイルスプリング付属ダンパーユニット

【ディテール】