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ハンサム自動車工場

  今回、塗装の相談をしに行ったのはクルマの板金塗装を専門に行うハンサム自動車工場(以下、ハンサムさん)なんですが、2輪専門とかベスパに対応してくれる塗装屋ではないのにわざわざ依頼しようという理由が気になるところではないでしょうか。この事についてムゼオに尋ねると、「偶然でもあるんですけど、元々同じベスパ乗りで、ベスパ乗りとしてイベントで知り合ったんですよ」との事です。
  ハンサムさんと出会った当時、ハンサムさんはすでに板金塗装屋だったそうです。しかも板金の古い技術について習得していて、その後現代的な新しい技術についても学んでいるので、状態やオーダー内容に合わせて最適な作業で対応してもらえるところが強みなんだとか。
  そもそも板金の古い技術とは、直すべき部分のボディ形状に合うように鉄板を叩いて整形して作ってしまい、その作った部分と繋げたいボディ部分とをガス溶接で溶着させるという技術なんです。そういう技術力を持っている安心感に加えて、ベスパが好きでベスパを知っている強みがあり、なにより昔から知っている仲間だから業務的に専門外であるのに特例的に受けてくれる事になったんだそうです。

ハンサム自動車工場

4輪の修理、整備、板金、塗装、販売がメイン業務。フェラーリやポルシェの依頼仕事も多く、その腕前がうかがえるというもの

住所:茨城県水戸市加倉井町1253番地の10
tel:029-253-4367
定休:日曜
営業:9時〜18時

正確な調色で望む色を作る

  前項ではレストアするにあたって、なかなか難しいリクエストであることに触れました。そして依頼する塗装屋として、ハンサム自動車工場というスペシャリストも決定しました。そこでハンサムさんの仕事ぶりも気になるところですが、古い車両を塗装してもらうにあたってどうやって調色するのかに注目してみようと思います。ある意味で調色のクオリティが見栄えを左右してしまうワケですから、めちゃめちゃ重要なポイントになるって事ですもんね。
  その辺りについてうかがってみたところ、ハンサムさんではより正確に調色するため測色機という機械を使うそうです。ハンサムさんではメインで使う塗料をスタンドックス製で取り揃えていて、そのスタンドックスが業務用に製品化した測色機がアクワイヤーRXスタンダードです。

  測色機なんて聞き慣れない機械名ですが、要は色を測定してデータ化し、そのデータ通りの色を再現するにはスタンドックス製塗料の◯◯◯を△△%、◯◯◯を△△%……というように配合の比率まで示してくれるという優れものなんです。ただし業務用なのでお値段はお高いみたいです。
  ハンサムさんによると導入後は効率的に調色できることで仕事が格段に早くなったという事ですが、そのまま出てきたデータ通りに使うのではなく、そこからさらに微調色して塗装工程に取りかかるんだそうです。その理由を「基本的にメーカーでは鮮度の高い塗料で調色して色を完成させるんですけど、こっちは塗料の封を開けて数日経過したりするので鮮度も落ち、シンナーも若干飛んだ可能性のある塗料で調色する事のほうがある意味で当たり前じゃないですか。そうなるとデータ通りに作っても色味がズレてくる可能性があるんですよ。なので、そこをまた微調色していくんです」と説明してくれました。
  ちなみにメーカーでは調色専門の人がいて、現車と合わせて調色していくようなんですが、どんな色が含まれて出来上がった色なのかを見ただけである程度分かってしまうんだとか。いやはや、スゴい話です。
  話が横道に逸れちゃいましたので、戻しましょう。アクワイヤーで計測して分かった配合比率を元にして最初の調色が始まるワケですが、そのためには色鉛筆や絵の具の基本セットみたいな原色を揃えておく必要があります。この原色はメーカーによって異なり、必要とする色数、色の種類、色の呼び名などが違っていたりするみたいです。まあ、それでも塗装屋としてはメインで付き合う塗料メーカーが指定するものを把握していれば大丈夫なワケで、ハンサムさんでもスタンドックスのベースコートカラーミックス表と原色特性表を張り出して頭に叩き込んでいるんだそうです。

  ただし車両メーカーの方で新色が採用されると古い原色では対応しきれなくなる事があって、その場合には対応する新しい顔料が出てくる事があり、結果的にそうやってどんどん原色セットが増えていってしまうんだそうです。

  スタンドックスの用意するカラーシート(写真左上)。調色するために使う原色で、この中のどの色を使うか、配合比率をどうするかで望む色を作っていきます/カラーシートに対応した実際の原色がこちら(写真右上)。左下にあるスイッチの操作で、すべての塗料をオートメーションで撹拌できる棚に収納されています/塗料庫の奥に張り出された原色特性表(写真左下)とベースコートカラーミックス表(写真右下)がこちら。原色表を見る事で、この色はこういう出方をするという事が分かるんだそうです

測色について

  ハンサムさんで使用するアクワイヤーRXスタンダードとは多角型分光測色機という機械で、クルマなどのボディやパーツの塗装面を測定し、配合された色の種類と比率を特定するものです。資料を見ると「パソコンと接続して700万色以上の登録データに基づき正確な調色作業を可能にする」とあり、それまでの手作業による調色をグンと効率化出来たとハンサムさんも効果を絶賛。

「旧車レストア編・第4話」で紹介しているテクニカ6のカラーナンバーとカラーサンプルから、塗装すべきVNB2の実際の色に近いものを選び出します(写真左上)/手持ちのパーツと選んだサンプルを見比べると、近似色だということが分かります(写真右上)/計測結果がカラーサンプルと違って見えるのは画面の明暗によるもの。実際はかなり近似色に見えました(写真左下)/配合比率は計測データに基づいて数値化され(写真右下)、これにあわせた調色後、実際のボディカラーとの更なる微調色で塗色の完成となります

調色の難しさ

  今回はカラーサンプルを用いながら、それに測色機を使うことで塗りたい色の近似色を作れる事が分かりました。測色機とは本来ボディに当てて使うものなので、実際の塗装に取りかかっていく段階では改めてVNB2のオリジナルカラーが残っているパーツを元にした測色から始まるようです。   以前だとそうした調色の行程を熟練工が目視で判断していたワケで、現行モデルなどの部分補修に測色機を用いれば格段にスピードアップするだろうと理解出来ます。ただレストアなどの凝ったものになってくると話が変わります。   測色機のデータである程度の近似色までは容易に作り出せますが、最終的な塗色を完成させるためには昔ながらの調色作業が必要となります。つまり調色の知識と経験なくして塗色を完成させるのは難しいという事なんです。   また塗装は新車なら板金の必要がほぼないと判断できますが、レストアでは確実に板金作業が必要となります。そこでも現代的なテクニック(アッセンブリー交換や表側だけパテ処理するという方法など)だけでは完璧なものとはならないため、ハンサムさんのように新旧の板金技術やベスパの知識が求められてしまうワケなんです。   さて、次回はハンサムさんが実際にどうやって調色していくか、そしてムゼオとの塗装をテーマとした対談などをお届けしていく予定です。

  測色機で測定するには平面であることがマストです。そしてボディで原色の残る箇所というのは、ずっとなにかのパーツの下側などで隠れていた部分ですから、テールライトを外した箇所で測色できるのか、はたまた原色が残る他の箇所が必要になるのか……

それでは次回をお楽しみに!