BBB MAGAZINE

  • 大人のたしなみとしてベスパに接してみよう!

    2016.06.01 / Vol.24

    ヒストリックモデル #07

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    隅本辰哉

    • 撮影

    隅本辰哉

    • バイク

    Vespa

第7回目は、いよいよ往年の人気モデルでもある1台をご紹介しちゃいます。ベスパにはベスパとしてのスポーツモデルを象徴するグランスポルト(=GS)というモデルが存在し、その称号は70年の歴史において数機種のみにしか与えられていないんです。
今回はそのうちの1機種である160GSについて、ファンを魅了するデザイン面も含めて掘り下げて行きましょう!

優雅で特別なグランスポルト/160GS

GSという特別な称号を冠し
GSという特別な称号を冠し実用性を高める方向で進化

1955年にデビューした最初のGS、それが150GSです。当時としては圧倒的とも言えるパフォーマンスを誇っていて、わずか150ccという排気量にもかかわらず脅威の100km/hをマークしていたことから話題となったスポーツモデルでした。この150GSは5型まで進化しながら1961年まで造り続けられ、後継モデルへとバトンタッチしています。ここで後を引き継いだモデルが今回の主役となる160GSです。
70年という長い長い歴史を誇るベスパというブランドには大変多くのモデルが誕生してきましたが、ベスパファンにとって特別なネーミングであるGS(=グランスポルト)を車名に冠するモデルはわずかしかありません。150GS、160GSと続き、しばらくこのネーミングは途絶えてしまいます。ところが、後になってPX200GS BMEというモデルでネーミングの復活は果たされました。ただ本格派スポーツモデルとしてエンジンやボディを設計して登場した150GSと160GSに比べると、PX200GS BMEは少しようすが違っているように感じられます。それにピアッジオからの公式発表もないため、PX200GS BMEの"GS"が"グランスポルト"を意味するものなのかも不明です。それでも200ccという排気量にマッチしたキャラクターとしてGT的な作り込みが随所に見て取れるなど、スポーツツアラー的なカラーを打ち出した意欲的な1台であり、その後ハイエンドラインのGT路線化を推し進めるキッカケとなったように感じられます。まあ少々話が逸れ気味なので戻しましょう。

150GS 1955年
1955年の段階で150GSがマークした100km/hという記録がどれほどズバ抜けたものだったかを証明する逸話として、日本製スクーターが100km/hを達成した時期はこれよりも後の年代かつ排気量もさらに高められていたということです。
160GS 1962年
160GSがデビューした頃の海外広告がこちら。GSの称号によってハイスペックなことは認知されているといった前提があり、そのうえで高い実用性によってカップルがデートで使うことも可能だという印象付けに成功したんじゃないでしょうか。

このように"GS(=グランスポルト)"とはスポーツモデルを象徴する特別なネーミングであることは間違いなく、なによりも初代の150GSが半ば伝説化していることもあって、160GSに対する走りのクオリティやパフォーマンス性が気になるところなんじゃないでしょうか?
160GSはそのネーミング通り、デビュー時点での最大排気量となる160ccユニットを搭載していました。これはフェンダーライトなどのバーハンドル系に搭載されていた3分割エンジンとは異なるタイプで、おそらく整備製なども考慮して次世代を見据えたと推測できる2分割エンジンだったんです。実際、2分割エンジンの登場以降はこの構造のエンジンが主流となってロータリーバルブ化されていきます。ただし160GSではそれまでのモデルと同様に、スポーツフィーリングが味わえるピストンバルブを採用していました。
それと本国仕様ではバッテリー点火となるんですけど、仕向地によってバッテリーレス仕様も存在します。アメリカや日本に出荷されたものの大半は、バッテリーレス仕様でメインキーのないタイプでした。
このように構造から変えられて登場した160GSでしたが、結果としてさらに耐久性が高まった市販スポーツモデルという位置づけを確立していったと言えそうです。最高速も先代譲りの100km/hを維持していましたし、そのまま日常の使用にも十分耐えるだけのスペックへと進化していたことで人気も獲得していったのでしょう。

当時のスタンダード的位置付けのモデルもチェック

150GL(1963年)
150GL(1963年式/owner:Seiichi Okazaki)

ハイエンドである160GSと同年代にラインナップされていたスタンダード的な位置付けのモデルと言えば、レストア編のほうで取り上げている125/VNB2の150cc版となる150/VBB2(1962〜1967年)があります。それなのに同排気量である150GLというモデルもラインナップされていました。これって販売戦略的にバリエーションを増やしたかったのではないかと推測します。ハイエンドでありスポーツモデルでもあった160GSとは別に、もっと気楽でちょっぴりゴージャスさも備えた......言うなれば上質なコンフォートセダンとでも分類したくなるようなポジションなんだと思います。目新しさや凝っている部分(サイドパネルのツマミにシェルデザインを採用)、それにモールが付くという豪華さも備えていました。ネーミングもGL(=グランルッソ:贅沢/特別といったニュアンス)ですから、ある部分ではハイエンドの160GSにも迫るほどの特別感を打ち出していたように感じられる興味深い1台だと言えるでしょう。

150GL(1963年)
1957年から始まる150cc版のスタンダード的位置付けVB系モデル群は、けっきょく1967年のVBB2までアップデートされながら生産されました。写真は1960年モデルで、150GLとは装飾の差によって位置付けの違いが感じられます。
全体的に角張っているスリムなフォルムが特徴
どことなく丸みよりもシャープさの際立った印象が目立ち、全体的に角張っているスリムなフォルムが特徴
スプリング&ダンパー別体式
スプリング&ダンパー別体式のハブまわり。モールは160GSのものよりも鋭角的に曲げられている印象です
スリムなサイドパネル。左側にボックスを装備
パッと見だと160GSに似たフォルムですが、実際はスリムなサイドパネル。左側にボックスを装備しています

ベスパらしいラウンドフォルムの完成形態

160GS
古き良きベスパらしさに加え流行りの装飾でよりデラックスに

つぎによく言われるデザインについて見てみることにしましょう。「優雅である」などと表現されることの多い160GSですけど、初期ベスパの流れをくむ"丸みが感じられる優美なフォルム"であること、さらに"手の込んだ造形や装飾を盛り込むことでアクセントとしている点"にあるんじゃないかと思われます。
例えばサイドパネルにプレスラインが入れられ、それに加えてアルミモールを採用しているんですけど、この手法により超デラックスな仕上がりであることが見るだけでも伝わってくるようです。
そもそも昔からの手法としてデラックス感を出すにはアルミモールが使われるというのがある種のパターン的で、とくに4輪などでは一般的な方法として取り入れられています。もっと言うと、この手法はゴージャス感の演出にも向いていたりします。
つまり160GSにこういった手法を適用しているのは時代的なものもあったのでしょうが、スペックを前面に押し出したような単なるスポーツモデルという位置づけとするのではなく、ゴージャスさだったりエレガンスさだったりというプラスアルファ要素としてのデザインを纏う"特別なハイエンドモデル"に仕立てようとしたのではないでしょうか。

【主要諸元】
 Vespa 160GS MK-1(1963年式/owner:Kenichiro Nakamura)

形式名 VSB1
製造年 1962~1964年
生産台数 5万9,999台
フレーム形式 スチールモノコック
全長×全幅×全高 1,795mm×710mm×1,045mm
ホイールベース 1,220mm
最低地上高 220mm
車両重量 110kg(乾燥)
燃料タンク容量 7.5L
燃料消費率 47.6km/L
最小半径 1,400mm
最高速度 100km/h
エンジン型式・種類 強制空冷式2ストローク単気筒
総排気量 145.5cm3(cc)
内径×行程 57mm×57mm
圧縮比 7.4:1
最高出力 5.9kW[8.02PS]/6,500rpm
燃料供給装置型式 Dell'Orto・SI27/23(キャブレター)
始動方式 キック
2stオイル混合比 1:50
クラッチ型式 湿式多板
変速機型式 常時噛合4速ハンドチェンジ式
ギヤレシオ 1速14.47:1/2速10.28:1
3速7.61:1/4速5.84:1
ファイナルドライブ ダイレクトドライブ式
タイヤサイズ(F/R) 3.5×10"/3.5×10"
ブレーキ形式(F/R) Φ125mmドラム式/Φ127mmドラム式
懸架方式(F) ダンパー×スプリング一体型シングルユニット
懸架方式(R) コイルスプリング付属ダンパーユニット
Vespa 160GS MK-1(1963年式)
Vespa 160GS MK-1(1963年式)

本来ならレッグシールド内側のフロントボックスはなく、スッキリとしたシンプルなフォルムがMK-1らしいポイントとなります。撮影車両はオーナーの好みにより、実用性重視でMK-2用の後付けフロントボックスとシートカバーを装着しています

【ディテール】

バックポケット(MK-1)
シート後端下部に設置されたバックポケットがMK-1だけの装備となります。キーも装備していて、ちょっとしたものをしまっておくのに重宝します
バックポケット内部
バックポケット内部のようすがこちら。オイル、計量カップ、ウエス、それに書類などをしまっておくのに役立つ程度の容量が確保されています
筒型形状のエアクリーナーボックス
筒型形状のエアクリーナーボックスは剥離されアルミ地となっていますが、結晶塗装(チヂミ塗装)仕上げがMK-1本来の正しい状態になります
リヤフェンダー
メインフレーム後端のリヤフェンダーがラウンドした形状で、ナンバーブラケット装着用の穴が3箇所開けられているのがMK-1の特徴となります

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