BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周 夢大陸オーストラリア編

    2008.11.23 / Vol.06

    「67歳の挑戦者」

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    藤原かんいち

    • カメラ

    藤原かんいち

    • バイク

    モトラ

VOL.06 「67歳の挑戦者」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]

いよいよ出発の時が来た。シンとカオルは2ヶ月間一緒に旅してきたが、今日ここを最後に別れるという。シンはナラーボー平原を越えてパースへ、カオルはシドニーから日本へ。そして僕は内陸縦断へ、今日から3人は別々の方向を目指す。

ポートオーガスタ4日目の朝。

3日間野宿をした
ここで3日間野宿をした。今日からそれぞれの方向へ旅立つ。

ふたりとガッチリと握手をすると胸がジーンとしてきた。短い時間だったけど、すごく楽しかった。出会えてホントに良かった。ありがとう。ふたりとも気をつけて、いい旅しろよ! 特にシンはこれからかなり厳しいルートを走ることになるが、絶対に無理しないように。死んだらお終いだぞと、最後にくぎを差しておく。
大きく手を振り、僕が一番に出発する。バックミラーに写るふたりの姿はみるみる小さくなっていった。

内陸を縦断する87号線に入ると風景は一変した。
シドニーからここまではどこかに人の気配を感じていたのだが、ここにきてそれがなくなった。人家もない、人を寄せ付けない荒々しい不毛の大地が延々と広がっている。行き交う車も激減。
87号線はメインルートなのに、周りに人家は見当たらず貴重なロードハウス*さえ100km、200km単位に一軒あるだけ。ついに本格的なアウトバックの世界が始まったのである。

シンとカオルと別れて4日後の朝。バックミラーに写った自分の顔を見て腰を抜かしそうになった。左の頬がまるでお多福風邪のようにプックリと腫れ上がっていたからだ。恐らく原因は虫歯だろう。ズキズキ痛むなぁ...と思っていたが、まさかこんなことになるとは予想もしていなかった。これはまずいことになった。
この先で病院のありそうな町はアリススプリングス、ここから軽く見積もっても最低3日はかかるだろう。それまで大丈夫か? ここはヒッチハイクをしてでも病院へ行くべきか迷ったが、幸い痛みはひどくないので、このまま冷やしながら行けるところまで行ってみることにする。熱が出てきたりひどくなったら、そのときでまた考えよう。とりあえず虫歯で死ぬことはないはずだ。
「アイタタタタタタタ...」
朝になり、ヘルメットを被ろうとしたら、ヘルメットの左側の突き出た部分が腫れている頬に当たり、死ぬほど痛かった。痛みが収まるのを待ってから、今度はヘルメットの底をググッと広げ、息を止めて、スローモーションで頭を沈めた。
「これじゃまるで時限爆弾装置を処理する、何とか班じゃないか...アハハハ...ア、ア、アイテテテテ...」

「ハロー!」

アレックスのパワー
アレックスのパワーには脱帽する。旅は無事に終えただろうか?

ポートオーガスタ とアリススプリングスのほぼ中間地点となるコッパーピディ まで後15kmのところ。暑さに負けて、ボーッと走っていると、遠い先の方の路上に大きな固まりが見えてきた。
車やバイク、自転車でもなさそうだ、一体なんだろう? 約50m位まで近づいたところでようやく、それが巨大な荷物を引っぱって歩いている人間であることが分かった。
この広大な土地を歩いている人がいるなんて...信じられない。
「ハロー!」
興奮しながら声をかけ、バイクを止めた。その人はアレックスという名のオーストラリア人で、シドニーから徒歩でエアーズロックを目指していると言う。とんでもないオジサンだった。

その後に67歳と聞いてさらに驚く。僕のおじいさんの年齢じゃないか。それなのに僕よりもパワーが必要なことに挑戦している、スゴイ人がいたものだ。僕は虫歯の痛みも忘れて感動した。
「このリヤカーはどうやって作ったのか?」
「一日何キロくらい歩くのか?」
「食料や水はどうするんだ?」
僕の質問にアレックスはジェスチャーを交えながら、分かりやすく応えてくれた。僕はひたすらファンタスティク! を連呼。僕もこのバイクでオーストラリア一周しているんだよ、と話すとアレックスも「ファンタスティク!」と言って笑ってくれた。それはこれまで言われた中で一番嬉しい、ファンタスティクだった。
僕はアレックスに元気をたくさんもらい、再び走りはじめた。あまりに衝撃的な出会いで、それからしばらくはアレックスの姿が目に焼き付いて離れなかった。

ブッシュの世界

マットを広げて昼メシ
マットを広げて昼メシ。オーストラリアのパンはなかなかおいしい。

うう~ん、それにしても...単調だ。
周りは見渡す限り、ブッシュまたブッシュの世界。他にあるのは真っ直ぐな道と、雲ひとつない青空と、燃えるような赤い太陽、それだけ。もう知っている歌も考えることもなくなった。脳味噌がとろけそうだ。
ポートオーガスタを出てから1週間走り続けている、大陸縦断道路スチュワートハイウェイと、ようやくお別れするときが来た。
エルドゥンダを左折をして、この旅のメインイベント、オーストラリアの象徴である「エアーズロック」へ向かった。
エアーズロックは大陸のほぼ中心に位置する、高さ約350m、周囲9kmに及ぶ世界最大級の一枚岩、先住民の聖地でもある。
この時間では一気にエアーズロックへ行くのは無理なので、左折して最初のロードハウス近くのレストエリア*で野宿にする。
ベンチに座って地図を開いていると、どこからかアボリジニが乗った車がやって来て、続々と人が降りてきた。さらに別の車も来て、ドンドン人が集まってくる。どうやらこのレストエリアがみんなの集会場らしい。これはとんでもないところで野宿することになっちまったぞ...。
みんな少々身なりは汚いが、とてもフレンドリーで「ハウアイユー?」と気さくに声をかけてくる。いい人達ばかりだった。

男達は僕のモトラに興味津々のようで「何ccだ?」「ギアは何速だ?」と矢継ぎ早に質問してくる。「どれくらいスピードが出るんだ?」と聞かれ「そうだなぁ...カンガルーよりも遅いな」と応えると、みんな大笑いだった。
そんな和気あいあいのところに観光バスがやって来た。するとみんな突然血相を変えて、バスに向かって走り出した。一体何が始まるんだ...と固唾をのむ。するとみんなバスの客に向かって「マネー、マネー」と騒ぎ出したではないか。なに? よく見ると白人がアボリジニへお金を渡している。なるほど、そういうことか...。
彼らにとっては当たり前のことかも知れない。だが同じ人間なのになぜ、生まれた肌の色が違うだけなのに、どうしてこんなことが起きてしまうのだろう。ついさっきまで僕たちは普通に話をしていたじゃないか...僕は何だか憂鬱な気持ちになった。

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