BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周

    2007.11.01 / Vol.13

    電動バイク世界一周の旅『 オペラハウスが見えてきた 』

CREDIT

VOL.13 『 オペラハウスが見えてきた 』[オーストラリア大陸編]

藤原かんいちの冒険ツーリング

タスマニアのビックツリー

ビッグツリー
高さ62m、幹周り16mのビッグツリーはさすがに大きかった。樹齢400歳の長寿だ

タスマニアへ行くためメルボルンのフェリーターミナルに行くと、20台以上のツーリングバイクが乗船を待っていた。まるで北海道へ渡るフェリーのようだ。みんなも僕たちと同じようにタスマニアの旅への期待で胸がいっぱいなんだろうなぁ。

「南極海は揺れるぞぉ~!」と脅されビクビクだった僕は、乗船の30分前に酔い止め薬を飲み、船が動き出す前に大急ぎでシャワーを浴びた。ところが動き始めた船は思いのほか揺れず、ガッカリ? 目が覚めたときは、既にタスマニアがすぐそばに見えてきた。

タスマニアの目的のひとつが「ビックツリー」に会うこと。この木はアニメ映画「天空の城ラピュタ」に出てくる木のモデルになった、という噂のある木なので(実際は違うらしいけど...)。どんな巨木なのかワクワクしながらバイクを走らせた。


ディップフォールズ
ビックツリーの近くにあるディップフォールズ。横に並ぶとそのスケールがわかる

しかし、寒い。
フリースとカッパを着込んでも背中がゾクゾクする。南極が近いことを肌で感じる。
バイクを止めて「BIG TREE」の標識に沿って森の中に入ってゆく。少し歩くと森の中に何か大きな気配を感じた、なんだろうと思いながらゆっくり視線を上げると、巨大な木が僕たちを見下ろしていた。

「おおおっ、デカイ!」
木肌がゴツゴツしていてまるで恐竜のようだ。今にもノッシノッシと動き出しそうだ。一本のユーカリの木なのに、なぜかこの木には他の木とは明らかに違うオーラが漂っている。すれ違った人が木を見て思わず「オウ、ビックツリー!」と目を丸くしているが、そのサイズ以上に存在感の大きなビックツリーだった。

野生ウオンバットに感激

オーストラリア人ライダーたち
宿で会ったオーストラリア人ライダーたち。すぐに意気投合、ライダーに国境はない!

乾燥した大地がどこまでも続いているメインランドとは違い、タスマニアの自然は変化に富んでいた。海あり山あり、川もあれば湖も森ある、まさに自然の宝庫だった。
圧巻だったのは何と言ってもクレイドル山・セントクレア湖国立公園。その風景が目に飛び込んだ瞬間、「わおおっ!」と思わず声を上げたほど。

ノコギリの歯ように切り立った岩山、その前に広がる美しい湖、ため息の出るようなその風景はまるで絵画のようだった。ヨーロッパやカナダを思わせる繊細な自然美、こんな風景に出会えると思っていなかっただけに、とても感激した。


タスマニアの東海岸
タスマニアの東海岸は美しかった。しかし、3月では寒くてとても入る気にはなれなかった

さらにその帰り道。バイクを走らせていると、道路にピョンピョンとカンガルーが飛び出してきた。ワーワー喜んでいると、その先では...何とビックリ、ウオンバットが歩いているではないか。おおっ、すごい! コアラの親戚なのだが、見た目は顔が大きくてかなりブサイク。動物園では見たことがあるが、野生を見るのはこれが初めて。

「あはははは...」
愛嬌たっぷりの大きな顔と丸い体をモソモソ動かしている。その姿が愛らしいこと。僕たちはその姿を見ているだけでホノボノとした気分になった。

思い出のメルボルンを後にして

青空の下を行くパッソル
青空の下を行くパッソル。バイクを止めると聞こえてくるのは鳥の声と風の音だけ...

タスマニア縦断の旅を終えてメルボルンへ戻ると、これまで何度もお世話になった、敦子&マイルス夫婦の家を再び訪ねた。
「ただいまーっ!」
「あーっ、お帰り。タスマニアどうだった?」

わずか11日振りだというのに、ふたりの顔がとても懐かしかった。荷物を預けているいつもの部屋に入ると、なんだか自分の家に帰ってきたような安心感に包まれる。すっかり家族のようになった僕たちだが、そんな気分に浸っていられるのも今回が最後。僕たちは旅人、いつかはここを出なければならないのだ。


デボンポートからメルボルン
デボンポートからメルボルンへ。フェリーターミナルはツーリングライダーがいっぱいだ

その翌々日。お世話になったふたりにお礼を告げて、思い出の詰まったメルボルンを後にする。ここを出たら後はシドニーを目指すだけだ。

「さあ、ヒロコ、行くぞーっ!」
シドニーまでどのルートで行くか迷ったが、結局、内陸のルートを取ることにした。最後は海岸線よりもやはりオーストラリアらしい、広い風景の中を走りたいと思ったのだ。

広大な牧草地の風景の中をひた走る。ポツリポツリ現れる町はどれも人口数千人の小さな町ばかりだが、どこもヨーロッパ風の古い建物が残っていて独特の雰囲気があった。次はどんな町なのか、楽しみにしながら進んでゆく。

圧巻だったブルーマウンテン

オリンピックハイウェイ沿い
シドニーへ向かう途中のオリンピックハイウェイ沿いには歴史を持つ町が点在していた

シドニーまで残り200kmを切った辺りから徐々にアップダウンが激しくなる。といっても日本の峠道のように山の斜面をクネクネと登ることはなく、どちらかというと森の中を延びる坂道を進んでいるという感じだ。

オーストラリアにしてはかなり高い、標高1000m前後の峠をいくつか越え、カトゥーンバの町に到着した。ここはあの「ブルーマウンテン国立公園」の観光の拠点となる町。

ところが運悪く到着したときから雨続き、宿から出ることができない。いつになったら晴れるんだぁ!? 滞在2日目の夕方にしてようやく雨が上がったので、「スリーシスターズ」という奇岩が見えるエコーポイントへ向かった。


ブルーマウンテンズ国立公園の「スリーシスターズ」
ブルーマウンテンズ国立公園の「スリーシスターズ」にはアボリジニの伝説が残っている

道は行き止まりになっていて、その先が広い展望台(エコーポイント)になっていた。展望台へ向かって歩いて行くと、展望台の先で大地は突如大きくえぐれ、見渡す限りユーカリの森が続く、巨大な峡谷が果てしなく広がっていた。

「すごーい、すごいね!」
そのスケールの大きさは圧巻のひと言だった。正直、ブルーマウンテンにはあまり期待をしていなかっただけに、その感動は余計に大きかった。

オペラハウスが見えてきた

シドニーにたどり着いた
パースを出発して約4ヶ月。長い道程を越えてシドニーにたどり着いた。感無量

ブルーマウンテンを見学したら後は、もうシドニーを目指すだけ。
道はほとんど下りのため、いい感じで距離が伸びる。これなら一日で行けそうだ。郊外の町をいくつか過ぎると、遠くに高層ビルが並ぶシドニーの町が見えてきた。
「おおっ、やった、シドニーだ!」

ゴールはもう目と鼻の先。気が急くのでそのままノンストップで町の中心へ入って行く。今日は祝日のため店はほとんど閉まっているが、さすがにオーストラリア一の大都市だけあり、人がたくさん歩いている。

大陸横断のゴールの記念に「ここがシドニー!」という写真を撮りたいと思い、バイクを止めて地図を開いた。調べてみると、ロックス辺りからなら湾を挟んでオペラハウスが見えそうなので行ってみることにする。

メインストリートを抜けて湾沿いの道に出ると、個性的な形をしたオペラハウスが目に飛び込んできた。オペラハウスをバックに記念写真を撮っていると、電気バイクでシドニーまで走って来たんだなぁ...そんな安堵感と感動が湧き上がってきた。

そう、僕たちはついにアメリカ横断に続いて、オーストラリア横断も成し遂げたのだ。
振り返るとオーストラリアの旅は色々あった。特に電気のないナラボー平原の横断は苦労したので、強く心に残っている。重いマジェスティを運転していたヒロコは僕以上に大変だっただろう。改めてヒロコにお疲れ様、そしてありがとうと言いたい。

続く第3ステージはヨーロッパ。長い歴史がある土地なのでこれまでとはまた違った旅になるだろう、楽しみだ。

取材・文/藤原かんいち&ヒロコ

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