BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周

    2007.11.02 / Vol.21

    電動バイク世界一周の旅『 ヨーロッパのゴール・アテネへ 』

CREDIT

VOL.21 『 ヨーロッパのゴール・アテネへ 』[ヨーロッパ大陸編]

藤原かんいちの冒険ツーリング

迫力があるブルガリアおばさん

山が多いブルガリア
山が多いブルガリア、車が通らないとまるで日本の林道を走っているようだった

「おかしいなぁ...ソフィアって地名がないぞ...」
ブルガリア北部のロベッチを出ようとしたが、道沿いのどの標識を見てもソフィアという文字がない。かなり近いはずなのに、どっちへ行けばいいんだ?

これは人に聞くしかないと思い、路肩にバイクを止める。歩道に入ると突然、太った中年のおばちゃんが一直線に走ってきた。
「なんだ、なんだ」
ビビっているといきなり「宿を探しているの?」「私ローザっていうんだけど、有名人なのよ」「あなた日本人? 私の家には日本人も泊まっているのよ」早口で捲くし立てる。


料理もおいしい
日本ではブルガリアといえばヨーグルトが有名だが、農業国なので料理もおいしい

おばさんの迫力に圧倒されオロオロ... 応える余裕もない。冷静に話を聞き、ようやく自分がやっているゲストハウス(民宿)に泊まらないか、と誘っていることがわかった。

なんだ、そういうことか。「昨日この町に泊まって、いま出るところなんだよ」そう応えると急激にトーンダウン。現金なものだ。そこで、道を聞こうと思っていたことを、はたと思い出した。

「...ソフィアならこの道をまっすぐよ。今度来たときは絶対家に泊まってね、じゃあ!」
嵐のように去って行くと、僕は狐に包まれたような気分になった。
「アレはなんだったんだ...」

山深い旧道を行く

ブルガリアの田舎道
ブルガリアの田舎道を行くかんいち。しかし、あまりのんびりもしていられない。冬は一歩一歩近づいているのだ

ソフィアへ向かっていると道が途中から高速道路になる。もちろんパッソルは走れないので、横道に逸れ、高速道路とほぼ平行して延びている旧道へ入って行く。すると旧道に入った途端、民家はなくなり、交通量もガクッと減った。

旧道は山の奥へ奥へと分け入って行く。山に囲まれた風景は日本にそっくり、なんだか日本の林道を走っているような気分だ。

旧道に入って1時間。人も車も見かけず。道路工事が1箇所、がけ崩れが2箇所あった。まさかこの先"がけ崩れで通行止め"なんてことはないだろうな...と思いながら先へ進む。


アレクサンダル・ネフスキー寺院
荘厳な佇まいの"アレクサンダル・ネフスキー寺院"はバルカン半島で最も美しいカテドラルといわれている

しかし、ソフィアへ繋がる道はこの旧道と高速道路だけ、もし通れなかったらアウト。いま残っているバッテリーの量では、手前の町に戻ることもできない。

旧道に入って2時間、車は0台。かなり心細い。ヒロコが「大丈夫?この道であってるんだよね?」と不安を口にする。
「大丈夫、さっきも山の上に高速道路の橋も見えたし、絶対この道だよ!」

とにかく信じて進む。すると道の前から牛の群れを引き連れた夫婦が歩いてきた、ということはこの道は繋がっているんだな。ああ良かった... と胸を撫で下ろす。強がりを言っていたが、実は僕も不安だったのだ。
そして、高速道路が一般道に変わったところで合流。どうにソフィアにたどり着いた。

ソフィアの熱い日々

日本人ライダー
ソフィアの安宿「バックパッカーズイン」で出会った日本人ライダー"テンコー"。現在アフリカ大陸を南下中

着いたソフィアの宿"バックパッカーズイン"には、噂通り日本人旅行者がいっぱい泊まっていた。
この宿に泊まったら宴会をするんだと、てぐすね引いていたヒロコはビールとワインを大量購入。早速、他の旅行者たちと旅の話題で盛り上がった。(僕は原稿書き。涙)

久しぶりに僕以外の日本人とおしゃべりが嬉しくて仕方がないよう。確かに、ヨーロッパで会った日本人旅行者は数えるほどだったからな。その気持ちよくわかる。


ブルガリア人が集まってきた
小さなパッソルを見つけたブルガリア人が集まってきた。電気バイクだとわかると、今度は質問攻め

ここはアジアを横断して来た長期旅行者が多く、そのほとんどが大学生や二十代前半の若者だった。僕の子供でもおかしくない年齢(コワイ...)だが、普段はなかなか知り合えない年代、逆に刺激的で楽しかった。旅行者は職業も年齢も旅のスタイルもバラバラだけど、同じ"旅人"という共通点だけで仲間になれる。それが旅のいいところなのだ。

ブルガリアの物価は日本の半分以下。一品200円~300円で食べられる、安くておいしい中華料理を食べに行ったり、怪しい"ナイトクラブ"に潜入したり、日本では一度も観にいったことがない"オペラ"を鑑賞したり(入場料はなんと350円!)。バイクの旅を忘れて楽しんだ。

不思議なホテル

ギリシャ
ギリシャは道が狭くビルが密集しているのでホテル選びやバイク駐車にとても気を使う

マケドニアに入って2日目、ある町の一軒のホテルに入った。
外観は10階建てのキチンとしたホテル。これなら部屋もそれなりだろうと思い、チェックイン。ここのマネージャー、僕たちに興味があるようで、わざわざ部屋まで案内してくれた。
部屋のドアを開けると、テレビのアンテナコードはあるのに、テレビがないではないか。マネージャーに聞くと、最近壊れたという。
「新しいのを買ってくれよ」

という言葉が出そうなったが飲み込む。きっと経営が苦しいのだろう。次に怪しいと思ったのが部屋のヒーター。これは動くんだよねと尋ねると、おいアレを持ってこいと他の従業員に指示。どこからか「小さな電気ストーブ」が運ばれてきたではないか。うーん、やっぱりヒーターも壊れていたのか。
まあ、ここまでは許そう。


半年振りのパンク
明日アテネだというのになぜこんなところで...リスボン出発日以来、半年振りのパンクに見舞われる

次にさっきから気になっていた、部屋に充満するトイレの匂いのことをつついた。すると隣の部屋はどうですかと案内される。入ってみると、確かにこっちの部屋は匂わない。じゃあこっちの部屋にするよというと、マネージャーが渋い顔になった。今度はなんだ?
「すみません...こっちの部屋はシャワーが壊れているんですよ」
「なんと! 今度はシャワーか」

呆れていると、マネージャーが得意げに
「それなら、寝るのはこっちの部屋で、シャワーはさっきの部屋でというのはどうですか? 料金はひと部屋分でいいですから」
というではないか。面倒なのでここに泊まることにしたが、ふたつの部屋を行ったり来たり、なんだか忙しかった。
全くもってこのホテル、サービスがいいのか悪いのか、よくわからない。ヨーロッパ一おかしなホテルなのであった。

ヨーロッパのゴール・アテネへ

アクロポリス
ギリシャ・アテネに到着。後ろに見えるのはアクロポリス感動の瞬間だ

マケドニアからギリシャに入ると、道が格段に良くなった。
しばらく走ると山道から平原に変わり、コットン畑が目立つようになる。いまが丁度収穫の時期らしく、荷台に白いコットンを載せたトラックが何台も通り過ぎて行く。
おもしろいのが運搬中のトラックが落としたコットンが、まるで雪のように路肩に積もっていること。それはこれまで一度も見たことがない、不思議な風景であった。

そんな秋らしい風景を楽しみながらひたすらアテネを目指す。
アテネに近づくにつれて交通量がどんどん増える。あまりに車が多く、バックミラーで後ろを確認するのが忙しくて感傷に浸る暇もない。
しかし、アクロポリスが見えるところをゴール地にしたいと思っていた僕は、地図を見ながら迷路のようなアテネの道を走り回る。そんなわけでようやく丘が見える公園に着いたときは、もう疲れてヘロヘロだった。

バイクをとめて写真を撮ったり、ビデオを回していると、徐々にゴールしたんだという実感が沸いてくる。アメリカ、オーストラリアとは違った苦労が色々あったけど、最後まで事故もなく、ふたりで無事ゴールができて本当に良かった。 11月9日、アテネ到着。
ポルトガルのリスボンを出発して180日。僕たちはアメリカ、オーストラリアに次いでヨーロッパ横断を果たした。

ルート = ブルガリア/ソフィア → ギリシャ/アテネ
取材・文/藤原かんいち&ヒロコ

人気コンテンツ