BBB MAGAZINE

  • 藤原かんいち電動バイク世界一周 夢大陸オーストラリア編

    2008.11.24 / Vol.25

    「地獄から天国へ」

CREDIT

    • ライター
    • 執筆

    藤原かんいち

    • 撮影

    藤原かんいち

    • バイク

    モトラ

VOL.25 「地獄から天国へ」[夢大陸オーストラリア - 番外編 -]

翌朝
結局、夕方から一台も車は通らなかった。目が覚めると居ても立ってもいられず、荷物をまとめすぐにモトラへ積み込んだ。

ハエがどんどん集まってくる
リンゴを囓ると、どこからかハエがどんどん集まってくる。実はかなりくすぐったい

道路に出るが辺りはシーンと静まり返り、車が通りそうな気配は微塵も感じられなかった。
だが反対にハエだけは、イヤというほど集まってくる。それも2~300匹ものハエが僕の動きに合わせて大移動するもんだから、たまったもんじゃない。しかし、こんな時はハエさえもあまり気にならない。顔の周りをハエがブンブン飛び回るのもかまわずに、リンゴをガリガリと囓った。
ジッとしていると時間が長く感じられて仕方がない。何かしていないと落ち着かないので、バイクを押して少し移動することにする。
と思ったところで絶妙なタイミングでアリススプリングス方向から車が現れた。
「おおお~い。止まってくれ~っ!」
車を止めて事情を話すと、オレ達の働いている鉱山の作業場に工具があるから乗っていきな、と親切に言ってくれた。感謝、感謝。
話の内容から、昨日の人と同じ鉱山で働いている人達のようだった。言葉に甘えて乗せていってもらうことにする。
車の荷台にモトラを載せ、僕が車内に入ると男が4人となりシートはギュウギュウ詰めになった。
走り出すとあっという間に時速100km以上の猛スピードになった。ダートなのにそんなに飛ばして大丈夫? 時速3~40kmの世界にどっぷり浸かっていた僕は、速度に目が追いついて行かずオロオロ...。まるでF1カーに乗っている気分。気が付くと掌が汗でビショ濡れになっていた。

「...スカッ」

僕とモトラを鉱山まで運んでくれた3人
エンジンが止まり途方に暮れていた僕とモトラを鉱山まで運んでくれた3人。感謝

1時間も走っただろうか。大きな鉱山に到着した。「BP(ブリテッシュペイトロール)」の文字が大きく掲げられているので、おそらく油関係の鉱山なのだろう。
ワークハウスと書かれた小屋へ行き、工具を借りて一回り大きいサイズの溝を掘った。初めてだが、やり方を教えてもらえたので意外と簡単に彫ることができた。最後にひとサイズ大きい新しいボルトを締めて、もらったエンジンオイルを入れた。
完全に焼き付いていなければこれでエンジンがかかるはず。一度はオイルが無くなり焼き付いているので、かかる可能性は低いが、とにかくやるだけのことはやった、後は神に祈るだけだ。
勢いをつけてキックスターターを踏み降ろす。

「...スカッ」
エンジンから気のない返事が返ってきた。やっぱりダメか...。もう一度気を取り直して、エイ、ヤッ!
「...スカッ」
ああ、やっぱりダメか。クソッ! こうなったらヤケクソだ。死ぬまで蹴り続けてやる。ブルン、ブルン。鬼の形相で2回、3回とキックスターターを蹴ると...
「タッ、タッ、タ、タタタタタタタタタ...」
「おおおおっ、かかった、エンジンが蘇ったぞ!」
聞き慣れた小気味良いエンジン音が、ワークハウス内に鳴り響いた。もう天に昇る気分だ。
エンジン近寄り耳を澄ませるが、特に異音もない。よし、これなら行ける。やった、旅が続けられる。嬉しい、本当に嬉しい。
お世話になった人達ひとりひとりの手を握り、お礼を告げる。彼らがいなかったら、あそこで終わっていたかもしれない。この旅はたくさんの人達に支えられて続けられるということを改めて感じるのであった。
タナミトラックルートを再び走れるとは思ってもいなかったので、夢のよう。喜びを噛みしめるように、走り出した。

人気コンテンツ